3級ではすでに問題文で示された剰余金の配当を未払配当金(負債)とし、会社法で決められた一定額を利益準備金(純資産)に振り替える処理を学習しました。
今回は、「会社法で決められた一定額」にスポットを当てて、実際に計算するところを学習していきます。
準備金の積立額の計算
会社法で規定する一定額の積立金額はどのように計算するのかということは、以下のとおりです。
剰余金の配当をする場合には、株式会社は、法務省令で定めるところにより、当該剰余金の配当により減少する剰余金の額に十分の一を乗じて得た額を資本準備金又は利益準備金として計上しなければならない(会社法第445条④)
株式会社が剰余金の配当をする場合には、剰余金の配当後の資本(利益)準備金の額は、当該剰余金の配当の直前の資本(利益)準備金の額に、次の各号に掲げる場合の区分に応じ、当該各号に定める額を加えて得た額とする(会社計算規則第22条①・②)。
このように続いていくわけですが、相当長いので原文は割愛します。ちなみに、この問題は司法書士試験にも出てくる論点です。
そして、これを要約したものが次のとおりとなります。
①資本金×1/4-(資本準備金+利益準備金)
②配当金×1/10
①と②を比べて小さい方が利益準備金の積立額となります。
大した語呂合わせではないのですが、①は資本金(4本金)の4で4分の1、②は配当金(配10金)の10で10分の1と覚えます。
ここでもう一つ押さえておきたい論点が、配当財源のお話です。
繰越利益剰余金(純資産)を財源とした場合、上記の計算式により積立金額を利益準備金(純資産)に振り替えます。
そして、その他資本剰余金(純資産)を財源とした場合、上記の計算式により積立金額を資本準備金(純資産)に振り替えます。
つまり、同じグループ内での振り替えとなることを注意して計算しましょう。
それでは例題として151回第2問の一部を改変してご説明いたします。
例題 次の資料にもとづいて①および②の仕訳をしなさい。
【資料】
1.平成29年3月31日の決算にあたって作成した貸借対照表において、純資産の部の各科目の残高は次のとおりであった。なお、この時点における発行済株式総数は50,000株である。(一部抜粋)
資本金¥20,000,000 資本準備金¥1,600,000 利益準備金¥400,000
2.平成29年6月28日、定時株主総会を開催し、剰余金の配当及び処分を次のように決定した。
①株主への配当について、その他資本剰余金を財源として1株につき¥5、繰越利益剰余金を財源として1株につき¥15の配当を行う。
②上記の配当に関連して、会社法が定める金額を資本準備金及び利益準備金として積み立てる。
本題は②ですが、②の計算をするにあたって①の金額が必要となります。
発行済株式総数50,000株にそれぞれの割合を掛ければ配当金が計算できます。
その他資本剰余金に対する配当金:50,000株×@5円=250,000円
繰越利益剰余金に対する配当金:50,000株×@15円=750,000円
仕訳自体は合計額で記入しても構いません。
【①の仕訳】
(その他資本剰余金)250,000/(未払配当金)1,000,000
(繰越利益剰余金)750,000/
次に積立金の計算に移ります。まず①の式をあてはめます。
①資本金×1/4-(資本準備金+利益準備金)
∴20,000,000×1/4-(1,600,000+400,000)=3,000,000円
次に②の式をそれぞれで行います。
②配当金×1/10
∴ その他資本剰余金:250,000×1/10=25,000円
繰越利益剰余金:750,000×1/10=75,000円
②の方が少ないので、②を採用します。
【2の仕訳】
(その他資本剰余金)25,000/(資本準備金)25,000
(繰越利益剰余金)75,000/(利益準備金)75,000
株主資本の計数の変動
株式の論点で「欠損てん補」にかかわる仕訳が出題されることがありますので、ここで少しだけ説明します。
今のご時世最もいえることですが、会社経営では黒字のときもあれば、残念ながら赤字になってしまうこともあります。赤字のときにその穴埋めをどうすべきかということが欠損てん補の問題となります。
まずはおさらいとして、純資産の各説明をしていきましょう。
純資産には、大きく出資金グループと利益金のグループがあります。
①資本金
会社の元手となる純資産の王様です。何事にも動じず、金額変更には株主総会の決議が必要となります。
資本金を守るために会社法で定められている準備資金です。資本金を守るための砦となります。こちらも金額の減少手続には株主総会または取締役会の決議が必要となります。
③その他資本剰余金
出資金グループでの余剰金が組み込まれます。ここから配当を行ったり、資本金等を増加したりできます。株主総会等決議はありますが、比較的自由にできるものです。
④その他利益剰余金
会社での利益が出た場合にまずはプールできるものに繰越利益剰余金があります。修繕積立金・任意積立金など何かの用途のために積み立てておく積立金とあわせてその他利益剰余金とされます。株主への配当を行うための資金もこちらになります。
株主への配当金を出すために会社法で定められているダムのようなものです。資本金が足りなくなったり、繰越利益剰余金が足りなくなったら利益準備金から補てんすることができます。
資金流用のケース
株主総会の決議とかの話は簿記に関係ないのですが、それぞれ重要度の比較ができるように示しました。また、考えやすいようにモノで例えています。
簿記で問題となるのは、どのようなときに、どのような範囲で資金流用できるのかということです。
箇条書きで以下にまとめましたので参考にしてください。
①同じグループ同士の資金移動はOK
資本金・資本準備金・その他資本剰余金の3つの間での資金流用はOKです。同様に利益準備金・その他利益剰余金(繰越利益剰余金・任意積立金など)の2つの間での資金流用はOKです。
②利益金グループの中でも資本金への移動はOK
資本金は純資産の王様なので、いろいろなところから吸い上げることができます。
③出資金グループから繰越利益剰余金へは欠損てん補の理由が必要
会社の営業利益からではなく、出資金から繰越利益剰余金とすることは、せっかく出資していただいた方々にお返しすることとなります。繰越利益剰余金の延長線上に配当金があるからです。
当期純損失で会社に赤字が発生し、繰越利益剰余金がマイナスになってしまったときに、その補てんをするためだけに許されます。
④剰余金同士の流用でも欠損てん補の理由が必要
最初に剰余金の使い道は比較的自由と話しましたので、同じ余り物の勘定科目であるその他資本剰余金とその他利益剰余金の間の資金流用もいいのではないかと思いますが、③と同じ理由で欠損てん補のときにだけ許されます。
原資が繰越利益剰余金のときは利益準備金への積立てにしなければならないとする準備金の積立額は、このルールに基づいていることがわかると思います。
最後にこの論点の過去問(150回第1問肢5)で締めたいと思います。
問 繰越利益剰余金が¥2,000,000の借方残高となっていたため、株主総会の決議によって、資本準備金¥3,000,000と利益準備金¥2,500,000を取り崩すこととした。利益準備金の取崩額は、繰越利益剰余金とした。
ここで一番多かった間違いの仕訳は以下のとおりです。
(資本準備金)3,000,000/(繰越利益剰余金)5,500,000
(利益準備金)2,500,000/
まず、「繰越利益剰余金が借方残高」ということは赤字の状態であるということです。その結果、資本準備金と利益準備金を取り崩して欠損てん補したということです。なので、この仕訳となった訳ですが...
これだと最後の「利益準備金の取崩額は…」という部分はなくてもいいはずですよね。あえて書いているということは、利益準備金の部分だけを欠損てん補に使ったということになります。ということで次に多かった間違いが…
(利益準備金)2,500,000/(繰越利益剰余金)2,500,000
資本準備金は必要ないので、なかったことになってしまいました。おそらく、
(資本準備金)3,000,000/(資本準備金)3,000,000
で戻してしまうことになってしまったのでしょう。左右とも同じ仕訳なのでなかったことにしたようです。
これではせっかく株主総会で資本準備金を取り崩す決議をしたことが意味をなさないことになってしまいます。では、資本準備金の行き先はどこになるのでしょうか?
このときの勘定科目一覧には出資金グループであるその他資本剰余金がありました。
資本準備金はその他資本剰余金へ移動したと判断することになります。したがって、正解は以下のとおりとなります。
(利益準備金)2,500,000/(繰越利益剰余金)2,500,000
(資本準備金)3,000,000/(その他資本剰余金)3,000,000
この次は順当にいけば、株主資本等変動計算書(S/S)となりますが、おそらく日商簿記の解答解説でいずれ出てきそうなので、ここでは割愛します。