ポリテク火星出張所!

商業高校あがりの行政書士が日商簿記をはじめとして資格支援のためにブログを書いています。

(単純)個別原価計算

前回まで基本である費目別計算をやってきました。これからは、実際に原価計算の工程に入っていきます。

2級における原価計算の方法は、以下のように区分分けされています。

①個別原価計算

 a.(実際)個別原価計算

 b.部門別個別原価計算

②総合原価計算

 a.単純総合原価計算

 b.工程別総合原価計算

 c.組別総合原価計算

 d.等級別総合原価計算

③標準原価計算

 a.パーシャルプラン

 b.シングルプラン

④直接原価計算

原価計算の種類がとても多く、試験で予想するのがとても難しいところです。工業簿記は、前回までの費目別計算とこの原価計算の後の本社工場会計の中で、大きく2問出題されます。費目別計算と本社工場会計は仕訳問題が中心となるのに対して、原価計算の方は計算問題が中心となります。

今回は、最初の入り口である(単純)個別原価計算を解説していきます。

(実際)個別原価計算

単に個別原価計算と呼ばれていることが多いので、今後はこの名称を使っていきます。

個別原価計算は、1つ1つの製品がオーダーメイドのため、個々に材料費や労務費が異なってきます。そのため、個々の製品について、それぞれ原価計算を行っていきます。

そして、そのオーダーメイドに基づいた内容が記載されたものを製造指図書といいます。製造指図書ごとにかかった費用(原価)を原価計算表に集計して、原価計算を行います。

ここからは、例題を先に示してから、具体的な解き方とともに進めていく方法でやっていきます。実際、試験問題を解くときには、テクニックが存在しますが、ここでは基本の解き方しか解説していません。

個人的に商売しているので、内緒の部分がありますが、本試験の解説でお話ししている場合がありますので、適宜その部分をご覧ください。

 

例)当工場では実際個別原価計算を採用している。次の【資料】をもとに6月中の原価計算表及び仕掛品勘定を完成させなさい。

【資料1】

製造指図書番号#10

5月分 直接材料費30,000円、直接労務費20,000円、直接作業時間50時間

6月分 直接材料費200,000円、直接労務費150,000円、直接作業時間110時間

5/18:製造着手 6/7:完成 6/20:販売

製造指図書番号#11

6月分 直接材料費300,000円、直接労務費280,000円、直接作業時間250時間

6/2:製造着手 6/6:一部仕損 6/25:完成 6/30:在庫

製造指図書番号#11-2

6月分 直接材料費25,000円、直接労務費70,000円、直接作業時間60時間

6/7:補修開始 6/22:補修完了

製造指図書番号#12

6月分 直接材料費80,000円、直接労務費75,000円、直接作業時間40時間

6/28:製造開始 6/30:仕掛

なお、#11-2は仕損が生じた#11を補修して合格品とするために発行した指図書であり、仕損は正常なものであった。

【資料2】

製造間接費は、直接作業時間を配賦基準として各製造指図書に予定配賦している。

年間の製造間接費予算額は13,000,000円、年間の正常直接作業時間は20,000時間である。 

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原価計算表の完成 

問題文を見ると、製造間接費の具体的な数字はありません。そのかわり直接作業時間(実際操業度)が記載してあります。そして、【資料2】で予定配賦と書いてありますので、まずは予定配賦率を計算します。

年間の製造間接費予算額が13,000,000円、年間の正常直接作業時間(基準操業度)が20,000時間となっていますので、単純に割ると予定配賦率が出ます。

予定配賦率:13,000,000円÷20,000時間=@650円/h

この予定配賦率にそれぞれの直接作業時間をかけると、製造間接費となります。

あとは、製造指図書番号ごとにそのまま埋めていけばよいのですが、10番の製造指図書だけ、5月分の費用が表示されています。そのため、5月分の直接材料費・直接労務費・製造間接費の合計を月初有高に記入します。

#10の月初有高:直接材料費30,000円+直接労務費20,000円+製造間接費(@650円/h×50h)32,500円=82,500円

そうすると、以下のところまで表が埋まります。

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ここで仕損費のお話をします。11番の製品を製造過程において、失敗してしまったようです。この失敗のことを仕損といいます。そして、この仕損に係る費用を仕損費(費用)といいます。

全く手直しができないスクラップ品については全額を仕損費にします。ただ、今回は手直しすることによって完成することができました。この手直しにかかった費用のみを仕損費とします。これが#11-2のことを指しています。この仕損費は11番として完成していますので、#11-2の費用をすべて仕損費の欄にて#11へ移動させます。

具体的な記載方法は以下のとおりとなり、合計欄も埋めていきます。

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最後に、備考欄も埋めていきます。個別原価計算では、この備考欄が非常に重要となるポイントとなります。この備考欄を把握していないと、次の仕掛品勘定に正しく転記ができなくなります。

それでは個別にみていきましょう。

#10は、6月中に製品が完成し、その月中に販売しています。この場合、「完成・引渡(済)」と記入します。

#11は、6月中に製品が完成したが、在庫として残っています。この場合、「完成・未引渡」と記入します。

#11-2は、#11に移動していますので、「#11へ賦課」と記入します。

#12は、6月中には、製品として完成できませんでした。この場合、「仕掛中」と記入します。

これで原価計算表は完成です。

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仕掛品勘定の完成

 完成した原価計算表をもとに仕掛品勘定を完成させましょう。

まずは、月初有高ですが、これはそのまま#10の合計82,500円を記入します。

次に直接材料費・直接労務費・製造間接費ですが、それぞれの合計金額605,000円、575,000円、299,000円を記入します。

これで仕掛品勘定の借方が埋まりました。つまり、横列の合計欄が借方に記入すべきものであることがわかります。

次は、貸方ですが、これは下の合計欄をもとに記入していきます。

#10と#11は完成して、製品勘定へ振り替えていますので、この合計金額1,380,500円を記入します。

#12については仕掛中ですから、仕掛品勘定の月末在高に181,000円を記入します。

まとめると以下のとおりとなります。

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個別原価計算については、製品勘定や月次損益計算書が付け加えられたり、前回の原価差異分析もあったりしますので、工業簿記として難しい問題の部類になっています。