今回は、2.土地の売却に関する内部利益の控除、3.債権債務の相殺を説明します。
まずは、続きの問題文からです。
問 次の【資料】にもとづいて、連結第4年度(×3年4月1日から×4年3月31日まで)の連結精算表(連結貸借対照表と連結損益計算書の部分)を作成しなさい。
【資料】
2.P社は連結第4年度中に土地(帳簿価額51,500千円)をS社に対して60,000千円で売却した。
3.連結会社(P社およびS社)間の債権債務残高および取引高は、次のとおりであった。
P社からS社
売掛金 66,000千円
未収入金 8,000千円
買掛金 210,000千円
支払手形 120,000千円
仕入(売上原価) 910,000千円
売上高 363,000千円
S社からP社
買掛金 59,400千円
未払金 8,000千円
売掛金 210,000千円
受取手形 0千円
売上高 910,000千円
部品仕入(売上原価) 356,400千円
残高又は取引高に差異が生じているものは、次のような原因によるものと判明した。
①連結第4年度の期末に、S社においてP社から仕入れた部品A6,600千円の検収が完了していないため未計上であった。
②S社がP社から受け取った手形120,000千円のうち、70,000千円は買掛金の支払いのため仕入先に裏書譲渡され、50,000千円は銀行で割り引かれた。割引の際の手形売却損240千円のうち期末から満期までの期間の額は160千円であった。S社の2,600千円はすべてP社から受け取った手形の割引によるものである。
このような差異については、連結上で消去仕訳のための追加修正仕訳、または、連結上適切な科目への振替仕訳を行う。(ただし、②の非支配株主に帰属する当期純利益への影響については修正しないものとする)。
のれんの償却(i)
問題の指示文には書かれていませんが、必要な処理が2つありますから、忘れずに仕訳を行うようにしてください。
当年度分ののれんの償却を行います。今回は、普通通りの仕訳で大丈夫です。
当年度ののれん償却額:(前回の計算より)48,000千円÷20年=2,400千円
【連結修正仕訳】
(のれん償却)2,400/(のれん)2,400
S社の当期純利益の振り替え(ii)
今回も、前回の話でわかりやすくP社と非支配株主という2名のオーナーがいると仮定します。S社の利益も費用もすべて8:2で配分していきます。
ということで、当期純利益36,000千円のうち20%は非支配株主持分へ振り替えます。相手勘定は非支配株主に帰属する当期純利益です。とても長いので、普段は非帰と短縮して読んでますし、書いています。他は知りませんけど…。
非支配株主持分への振替分:36,000千円×20%=7,200千円
【連結修正仕訳】
(非支配株主に帰属する当期純利益)7,200/(非支配株主持分)7,200
内部利益(土地売却)の控除
2.において、P社からS社へ土地の売却が行われています。
この内部取引で登場する考え方が、ダウンストリームとアップストリームです。
ダウンストリームは、親会社から子会社に取引があるときに使われます。P⇒Sで上から下への流れになりますので、ダウン↓です。
ダウンストリームについては、特別に仕訳を変えることはしません。
アップストリームは、子会社から親会社に取引があるときに使われます。P⇐Sで下から上への流れになりますので、アップ↑です。
アップストリームについては、共同経営者である非支配株主のことを考えなければなりません。S社が利益を得ることになれば山分けになりますし、S社が費用を負担することになればお互いで負担しなければならないのです。
今回は、ダウンストリームですから特に非株主持分に配慮する必要はありません。そして、綾会社から子会社に対してつけた利益は、連結(P社・S社を1つの会社)としてみた場合は、あってはならない利益になります。なぜなら、P社が赤字だった時に、S社に高値で土地を売れば、自由に利益操作ができることになります。利益操作ができるということは粉飾決算となり、脱税行為となる場合があります。
ということで、土地を最初の帳簿価額に戻して、利益分を逆仕訳により消してしまいます。
【売却時の仕訳(P社)】
(現金預金など)60,000/(土地)51,500
/(土地売却益)8,500
【売却時の仕訳(S社)】
(土地)60,000/(現金預金など)60,000
土地の値段が60,000千円となっていますので、最初の価額の51,500千円に減らします。
【連結修正仕訳】
(土地売却益)8,500/(土地)8,500
内部取引高・債権債務の相殺
例えば、P社からS社に1,000円売り上げが掛取引であったとすると、以下のようになります。
【P社の仕訳】
(売掛金)1,000/(売上高)1,000
【S社の仕訳】
(仕入)1,000/(買掛金)1,000
この売上も水増し対象となる取引なので、お互いの取引をなくしてしまう作業をします。このとき、P社からの売上とS社からの仕入の数字や、P社の売掛金とS社の買掛金の数字は一致します。
これを踏まえて、問題の資料を確認しましょう。すると、金額が一致しない行が存在します。
1行目(P⇒S)売掛金66,000千円と(S⇒P)買掛金59,400千円
4行目(P⇒S)支払手形120,000千円と(S⇒P)受取手形0千円
6行目(P⇒S)売上高363,000千円と部品仕入(売上原価)356,400千円
これについては、原則金額を一致させる作業をしてから、逆仕訳によって消していきます。
まずは、①の検討です。
仕入の計上時期について検収基準を採用しているようです。これについては、まだ仕入れの仕訳がなされていないため、その処理をします。ただし、今回の部品の仕入は、手付かずのものなので、原材料の在庫を増やすことになります。
【連結修正仕訳】
(売上原価)6,600/(買掛金)6,600
(原材料)6,600/(売上原価)6,600
この仕訳によって、1行目(66,000千円で一致)と6行目(363,000千円で一致)が解消されました。
次に、②の検討です。
まずは前半の文章ですが、70,000千円は買掛金の支払いのため、仕入先に出て行ってしまっているので、内部取引ではありません。したがって、この部分については、何もする必要はありません。
続いて後半部分ですが、下の図をご覧ください。
P社とS社の取引については、手形を発行しています。S社は、その手形を満期日まで保有することなく、銀行に持ち込んで割引料を払ったうえ決済をしています。
満期日になれば、P社がその手形代金を支払うという流れです。
連結会計になると、P社とS社の関係は同一会社とみなされるのでこうなります。
P社とS社の取引は無視されるので、手形の割引きではなく、手形による借入れということにみなされます。
連結グループ会社が、お金を調達するために手形を振り出して、事前に利息を差し引かれて差額を受け取ることになります。満期日になればグループ会社が支払います。
ということなので、手形割引の仕訳から(手形)借入金の仕訳に変更をしなければなりません。
【S社の手形割引の仕訳】
(現金預金など)47,400/(支払手形)50,000
(手形売却損)2,600/
【連結上での正しい仕訳】
(現金預金など)47,400/(借入金)50,000
(支払利息)2,600
支払手形は借入金に、手形売却損は支払利息に振り替える仕訳が以下のとおりとなります。
【連結修正仕訳】
(支払手形)50,000/(借入金)50,000
(支払利息)2,600/(手形売却損)2,600
まだ処理が続きます。手形売却損のうち240千円のうち160千円は次期の利息になっており、前払いをしています。したがって、決算日における費用の繰延処理が必要となります。なお、手形売却損はすでに上の仕訳により、支払利息に変わっています。
【連結修正仕訳】
(前払費用)160/(支払利息)160
これで、4行目の問題がすべて解消されました。
あとは、同じ科目を足して、対応する科目同士を相殺していきます。
【対応する科目】
①売掛金⇔買掛金:66,000千円(1行目)+210,000千円(3行目)=276,000千円
②売上高⇔仕入(売上原価):910,000千円(5行目)+363,000千円(6行目)=1,273,000千円
③未収入金⇔未払金:8,000千円
【連結修正仕訳】
(買掛金)276,000/(売掛金)276,000
(売上)1,273,000/(売上原価)1,273,000
(未払金)8,000/(未収入金)8,000
本日の修正仕訳を反映した解答用紙がこちらです。これでだいたい7割方は得点となっているでしょう。
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