個人事業主の間ではクラウドタイプやソフトウェアタイプの会計ソフトが普及しています。これは、簿記の知識がなくても入力が簡単なので、その日に利用することができる優れモノです。
あとは勘定科目の区分の本を1冊買ってしまえば、そのまま決算書作成まで仕上げることができます。
ところが、本当にそうでしょうか?会計ソフトを使用する上で最低限簿記3級の知識は必要といいたいところです。顧問税理士を雇っている方は別ですが…。
今回は、その落とし穴について詳しく説明していきます。
その現金合ってますか?
最近はキャッシュレスも普及してきて、現金を持ち歩かない方も増えてきています。それでも事業を行うには、手提げ金庫ほどの現金は必要です。
100均などで消耗品を買ったり、会議での交通費や駐車場代を現金で支払うことはまだまだあるでしょう。まとめて入力をしている方は特に要注意ですが、毎日、ソフトに入力していても間違いが起こることがあります。
それは、「現金残高がマイナスになってしまう」現象です。会計ソフトに現金に関する取引を入力していくと、自動的に現金出納帳が作成されていきます。
もちろん領収書の日付順に入力することは当たり前なのですが、その順序にも気をつけなければなりません。
例えば、事務所の現金が0円だったと仮定します。そして、普通預金から1万円を下ろした後、ダイソーで5千円ほど消耗品を購入しました。このとき、入力の順序を仕訳の表示は以下のとおりとなります。
①普通預金から1万円下ろす。 現金出納簿の残高 10,000
(現金)10,000/(普通預金)10,000
②ダイソーで5千円分消耗品を購入する。 現金出納簿の残高 5,000
(消耗品費)5,000/(現金)5,000
これは、問題ないですね。ところが、たくさんの領収書を先に入力してしまいたいと思っている方はどうでしょう。
①ダイソーで5千円分消耗品を購入する。 現金出納簿の残高 -5,000
②普通預金から1万円下ろす。 現金出納簿の残高 5,000
その日の最終的な残高は合いますが、絶対的なルールに違反していることになります。それは、
「現金はゼロ円になっても、マイナスになることはない」
という大原則があるからです。よく考えてみてください。財布の中身のマイナスってどう表現すればよいのでしょうか?
誰かからお金を借りたとしても、現金という現物は手元にありますから、資金がマイナスでも、現金がマイナスには絶対なりません。
大体の会計ソフトの入力は振替伝票のボタンから入力するように解説されています。そのため、現金出納帳を印刷するまで見ない方もおられます。また、マイナスになってもこの原則を知らなければ、気にも留めないのです。
最終的には残高が合うとしても、税務調査が入ってこんなもの見せてしまうとどうでしょう。ずさんな帳簿管理を指摘されます。
「現金も合わせられないんだから、他の帳簿も絶対ミスがあるはず。そして、それは納税にも影響している。」と心証が悪くなることでしょう。
まず間違ったことに気づいたなら、その日であればすぐ修正しましょう。ただし、現金出納帳を毎月印刷していて、数か月後に初めて気づいたなど大分経ってたり、修正箇所が1つに留まらないなど修正も困難な場合はあります。そんなときは、備考欄に「伝票番号110番と111番の入力を前後間違って入力したため ○月○日判明」などと理由を書いておいて、自分はこの誤りに気付いているんだぞというてん末を残しておいてください。あとは、今後同じ間違いをしないことを心がけましょう。
年会費や保険料などを年払いしている場合
個人事業主の会計期間は周知のとおり1月1日~12月31日となっています。
そこで、期中に年会費や年払保険料など先の経費までまとめて支払う場合があります。この場合、費用収益対応の原則という会計上の規則があります。
詳しい内容については、以下の記事をご覧ください。
誤って来年度の費用を計上することは、その分当期純利益が減ることになります。確定申告であれば、必要経費を多く計上しているので事業所得が減ることになります。
所得税や法人税は事業所得や(税引前)当期純利益の数字から計算されるので、過少申告となってしまいます。悪く言えば、脱税にもつながってしまいます。
その結果、過怠税や重加算税などのペナルティがあるので、注意して欲しいところです。そうならないためにも税理士による専門家に見てもらうことが大事です。
この費用計上については、以下3つも同じ結果となりますので注意しましょう。
売上計上の時期について
その場で商品売買やサービスが完結するものは特に問題ありませんが、手付金(着手金)を事前に受け取っている商売の方は、その売上計上の時期に注意しましょう。
ここは行政書士業務を例にあげます。
例)自動車保管場所証明(車庫証明)のため、事務委任契約を締結した。その翌日10,000円着手金として普通預金に入金確認をした。その後、手続きが終了し、保管場所証明書・保管場所標章などを納品した。
この場合、経理するタイミングは、
①契約締結時
②着手金入金時
③事務完了時(納品時)となります。
正解は③事務完了時(納品時)となります。
①は契約をしただけで、双方まだ何もしていません。この場合、仕訳自体が不要です。
②については、着手金は前受金(負債)として処理する必要があります。このとき、まだお客さんの手元には何も手渡されておらず、行政書士自体も仕事をしている訳ではありません。よって、入金の事実だけを仕訳します。
(普通預金)10,000/(前受金)10,000
③については、双方の目的が達成されたときなので、ここで前受金を減らして、売上を計上します。
(前受金)10,000/(売上高)10,000
これについては、普段ならいきなり売上計上しても特に問題はありませんが、やはり年度末だけ税金が関係するので、業務が年を越すものはないかどうか確認が必要となります。
あとは、月次決算をしている方は、正確なデータが得られるので、この覚え方で会計ソフトに入力しましょう。年度末だけだとどうしても忘れがちなので、普段からその心積もりの方が気が楽になります。
生活関連費の計上について
水道代、電気代、電話料金などの生活関連費についても、計上の時期に注意が必要です。電話代は別として、水道代や電気代などは検針をします。そのため、経理するタイミングは以下のケースが考えられます。
①検針時
②請求書送付時
③料金引き落とし時
こちらの正解は①検針時となります。
電気や水道などは使用し終わった量を検針して、料金が確定しますので、商品を受け取ったときと同じように考えます。
(水道光熱費)×××/(未払費用)×××
相手勘定は未払費用(負債)で処理します。
②については、すでに確定した料金を請求書にしただけなので、この時点での仕訳は不要です。
③については、料金を支払ったときの仕訳をすることになります。
(未払費用)×××/(普通預金など)×××
ネットで買い物をした場合(クレジット決済)
その場で手に入らないものは、Amazonやアスクルなどのネットで消耗品などを注文することがあります。このときの経理のタイミングは4つのケースが考えられます。
①注文したとき
②商品が到着したとき
③クレジット会社から請求書が来たとき
④代金を支払ったとき
ここまでくれば大体わかってきたのではないでしょうか。正解は②となります。商品の受け渡しがあったときが経理するときになります。
①特になし
②(消耗品費)×××/(未払金)×××
③特になし
④(未払金)×××/(普通預金など)×××
着払いのときは、②の時点で支払も完了するので、この時点で仕訳をします。着払手数料がかかった場合は支払手数料(費用)で処理します。送料(受取人負担)がある場合は、原則、本体価格に含めて一括で消耗品費(費用)で処理するか、通信費(費用)または荷造運賃(費用)などで別に処理します。
ところで、水道光熱費のときは未払費用、消耗品費のときは未払金としていることに気づきましたか?
単発で買い物しているときには未払金を使います。水道光熱費や地代家賃、賃借料など継続的にサービスの提供を受ける契約のときは未払費用を使います。
このように会計ソフトでも簿記の知識が必要となりますので、個人事業主自身で経理をなさる方は簿記3級程度の知識を備えておきましょう。もしくは日払いで人を雇うような感覚で行政書士の会計記帳代行をご利用ください。