今回は標準原価計算において、もう一つの計算方法であるシングル・プランの説明をしていきたいと思います。
シングル・プランは、仕掛品ボックスの作成を標準原価(SC)一本で行う計算方法です。したがって、シングル・プランにおいて、原価差異はそれぞれの費目別に現れます。
それでは、実際の問題を解いてみましょう。
問 A社では、工程の始点で投入した原料Pを加工して製品Cを生産している。標準原価計算制度を採用し、勘定記入の方法はシングル・プランによる。製品Cの標準原価カードは次のとおりである。
原料費 標準単価 140円/㎡ 標準消費量 2㎡ 280円
加工費 標準配賦率 60円/時間 標準直接作業時間 4時間 240円
製品C1個あたりの標準製造原価 520円
次の資料にもとづいて答案用紙の各勘定に適切な金額を記入しなさい。なお、材料勘定には、原料Pに関する取引だけが記録されている。(146回問2部分抜粋)
【資料】
⑴ 原料P2,800㎡を1㎡あたり150円で掛けにて購入した。当工場では実際の購入単価をもって材料勘定への受入記録を行っている。
⑵ 原料Pの実際消費量は2,600㎡であった。原料の消費額については、製品の生産実績にもとづき、月末に一括して仕掛品勘定に振り替え、原価差異を把握する。
⑶ 原料Pの月末在庫は200㎡であった。月初在庫はなかった。
⑷ 製品Cの生産実績は次のとおりである。
月初仕掛品 200個(加工進捗度50%)
当月投入 1,250個
合計 1,450個
月末仕掛品 250個(加工進捗度40%)
当月完成品 1,200個
仕掛品ボックス(材料費)の作成
まずは、簡単な仕掛品ボックスを作成していきます。このボックスについては全て標準原価を使用します。したがって、問題文から原料費の1個あたりの標準原価は280円となっています。これに資料⑷の生産実績データをあてはめれば完成します。
月初仕掛品:200個×@280円=56,000円
当月投入:1,250個×@280円=350,000円
当月完成:1,200個×@280円=336,000円
月末仕掛品:250個×@280円=70,000円
同じ原価を使っているので貸借は一致し、原価差異は発生しません。
仕掛品ボックス(加工費)の作成
加工費の方も同じように作成します。問題文から標準単価は240円となり、加工進捗度の分だけ個数調整をします。
月初仕掛品:100個×@240円=24,000円
当月投入:1,200個×@240円=288,000円
当月完成:1,200個×@240円=288,000円
月末仕掛品:100個×@240円=24,000円
最後に解答用紙にそれぞれ材料費と加工費を合わせた金額を記入します。ただし、当月投入については、別個の計算となっていますので分けて記入します。
材料ボックスの作成(原価差異以外の数字)
まずは、貸方の仕掛品ですが、これはさきほどの仕掛品ボックスの材料350,000円(標準原価:SC)がそのまま入ります。
これ以降は実際単価(AC)を使用します。まず、借方の買掛金の部分です。これは当月の購入金額となります。資料⑴の数字を用いて計算します。
当月購入:2,800㎡×@150円=420,000円
仕訳にすると以下のとおりとなります。
(材料)420,000/(買掛金)420,000
続いて、月末有高ですが200㎡余ったようなので、それに実際単価を掛けて計算します。
月末有高:200㎡×@150円=30,000円
ここまでを解答用紙に記入したものが以下の図となります。
材料ボックスの作成(価格差異)
原価差異は40,000円(貸借差額)となりますが、これを価格差異と数量差異に分けて記入しなければなりません。
まずは価格差異に注目します。問題文の標準原価カードをもう一度抜き出します。
原料費 標準単価 140円/㎡ 標準消費量 2㎡ 280円
単価については、標準単価は140円/㎡であるべきところを、実際は150円で購入しています。つまり、1㎡あたり10円余計に材料費がかかっていることに気付きます。
続いて数量ですが、購入数量は2,800㎡、月末有高は200㎡です。実際に使用した数量は2,600㎡となります。
価格差異の計算式は以下のとおりとなります。
価格差異:(標準単価-実際単価)×実際消費量
ということで価格差異は、
(140円-150円)×2,600㎡=▲26,000円(借方差異・不利差異)となります。
試験であれば、総差異が40,000円ですので、数量差異は14,000円とひとまず記入しておきましょう。あとで検算の際に数量差異を改めて計算するとスピードアップにつながります。
材料ボックスの作成(数量差異)
つぎは数量について注目します。さきほど作成した仕掛品ボックスの当月投入数量は1,250個でした。そして1個あたりの標準消費量は2㎡です。したがって、標準消費量は1,250個×2㎡=2,500㎡となります。ですが、実際消費量は先ほど計算した通り2,600㎡です。つまり、100㎡余分に材料を使っていることに気付きます。
数量差異の計算式は以下のとおりです。
数量差異:標準単価×(標準消費量-実際消費量)
ということで数量差異は、
140円×(2,500㎡-2,600㎡)=▲14,000円(借方差異・不利差異)となります。
全て解答用紙を埋めると以下のとおりとなります。
計算式を暗記するのが得意な理数系頭脳の持ち主の方はこのような解き方が近道です。しかし、私は文系頭脳なので計算式を暗記するのがとても苦手です。
そういう方には図にして計算する解き方があります。標準原価計算の問題は、原価計算をするほかに原価差異の計算もしなければなりません。それはシングル・プランもパーシャル・プランも同じです。
次回は、この問題を使って差異分析中心のお話をしていきます。