今回は全部原価計算と直接原価計算の違いについてみていきましょう。
まず下の表を見てください。
総合原価計算と標準原価計算は、仕掛品ボックスまたは製品ボックスに焦点を当てていました。直接原価計算については、損益計算書に焦点を当てて問題を解いていきます。
その損益計算書の中身ですが、直接原価計算は変動費と固定費を分けて表示することとなっています。そのため、売上原価も販管費も変動費と固定費にそれぞれ分けて表示しています。
なお、問題文では変動売上原価と変動販売費を分けずに単に変動費、変動固定費と固定販売費及び一般管理費を分けずに単に固定費とすることが多いです。
そして、実際の問題では、全部原価計算の損益計算書を直接原価計算に作成し直すというものが出てきます。
全部原価計算は、総合原価計算や標準原価計算など、今まで習った原価計算をもとにしていますので、ボックスを使っての解き方になります。
ここは、過去に出題された問題(145回第5問)を使ってご説明します。
問)A社では、製品Pを製造・販売している。これまで全部原価計算による損益計算書を作成してきたが、販売量と営業利益の関係がわかりにくいため、過去2期分のデータをもとに直接原価計算による損益計算書に作り替えることとした。次の【資料】にもとづいて、直接原価計算による損益計算書を完成しなさい。
【資料】
⑴製品P1個あたりの全部製造原価
(前々期)
直接材料費:?円
変動加工費:80円
固定加工費:?円
合計:1,020円
(前期)
直接材料費:570円
変動加工費:?円
固定加工費:?円
合計:955円
⑵固定加工費は前々期、前期とも360,000円であった。固定加工費は各期の実際生産量にもとづいて実際配賦している。
⑶販売費及び一般管理費(前々期・前期で変化なし)
※以下、販管費とする。
変動販売費:110円/個 固定販売費及び一般管理費:?円
⑷生産・販売状況(期首・期末の仕掛品は存在しない)
期首製品在庫量 前々期:0個 前期:0個
当期製品生産量 前々期:1,000個 前期:1,200個
当期製品販売量 前々期:1,000個 前期:1,000個
期末製品在庫量 前々期:0個 前期:200個
(前々期)
売上高:1,600,000
売上原価:1,020,000
売上総利益:580,000
販管費:390,000
営業利益:190,000
(前期)
売上高:1,600,000
売上原価:955,000
売上総利益:645,000
販管費:390,000
営業利益:255,000
⑴の製品P1個あたりの全部製造原価
まずは、⑴製品P1個あたりの全部製造原価の?を埋めていく作業に入ります。使う資料は⑵⑷⑸となります。
その前に⑷をボックス化して見やすくしてみましょう。やり方は今までの方法と変わりませんので解説は省きますよ。
では前々期の各内訳からやっていきます。ここで最初に出す数字は、固定加工費です。
⑵固定加工費360,000÷前々期の生産個数1,000個=360円となります。
あとは差し引きで直接材料費がでます。
直接材料費:1,020円(合計)-変動加工費80円-固定加工費360円=580円
まとめると以下のとおりとなります。
(前々期)
直接材料費:580円
変動加工費:80円
固定加工費:360円
合計:1,020円
次は前期の各内訳です。数字の出し方は同じです。
固定加工費:⑵360,000÷前期の生産個数1,200個=300円
変動加工費:955円(合計)-直接材料費570円-固定加工費300円=85円
(前期)
直接材料費:570円
変動加工費:85円
固定加工費:300円
合計:955円
⑶の販管費
次は固定販売費及び一般管理費の?を計算します。
⑸で販管費は前々期・前期ともに390,000円となっています。
今回は販売に対してかかった費用なので、生産個数ではなく、販売個数1,000個の数字を使います。
したがって変動販売費は、以下のとおりとなります。
変動販売費:110円×1,000個=110,000円
固定販売費及び一般管理費は差し引きで計算します。
固定販売費及び一般管理費:390,000円(合計)-変動販売費110,000=280,000円
前々期・前期ともに販売個数が1,000個なので同じ数字となります。
これで?の数字はすべて判明しました。
前々期の損益計算書の作成
解答用紙には、変動費と固定費とだけ書かれていますので、変動売上原価(直接材料費+変動加工費)と変動販売費を足せば変動費となり、固定加工費と固定販売費及び一般管理費を足せば固定費となります。
変動売上原価:(580円+80円)×1,000個=660,000円
※売上原価の個数1,000個を使います。
変動販売費:110,000円
変動費:660,000円+110,000円=770,000円
固定加工費:360,000円
固定販売費及び一般管理費:280,000円
固定費:360,000円+280,000円=640,000円
あとは解答用紙に書き込んで完成です。
売上高-変動費=貢献利益
貢献利益:1,600,000円-770,000円=830,000円
貢献利益-固定費=営業利益
営業利益:830,000円-640,000円=190,000円
前期の損益計算書
先ほどと要領は同じです。
変動売上原価:(570円+85円)×1,000個=655,000円
変動販売費:110,000円
変動費:655,000円+110,000円=765,000円
固定費は前々年度と同じです。
固定費:640,000円
貢献利益:1,600,000円-765,000円=835,000円
営業利益:835,000円-640,000円=195,000円
全部原価計算と直接原価計算の差異の原因
ここで全部原価計算による損益計算書と直接原価計算による損益計算書を比較してみましょう。
前々期については、当期製造した分だけすべて売り切ったので、期末在庫はありません。期首在庫も最初からありませんでした。
この場合は、営業利益に変化は生じません。
問題は、前期の損益計算書です。
全部原価計算のときと比較して、直接原価計算の営業利益は、60,000円少なく計上されています。これはどういうことでしょうか。
その理由は固定費の意味にかかっています。全部原価計算のときには、単価を計算する場合、変動費と固定費に分けず、すべてひっくるめて単価を計算していました。
例えば、変動費@100円・固定費120,000円の商品を1,200個製造して、1,000個販売した場合、全部原価計算では、固定費は120,000÷1,200=@100円となります。よって、商品単価は変動費@100円+固定費@100円=@200円です。
したがって、売上原価は200円×1000個=200,000円となります。
ところが、直接原価計算では、固定費は120,000円丸々かかってしまいます。そのため売上原価は、変動費@100円×1,000個=100,000円+固定費120,000円=220,000円となるのです。
全部原価計算では販売した分だけ売上原価に計上しますが、直接原価計算では、固定費は発生した分すべてかかってしまうことになります。
図にすると以下のとおりとなります。
全部原価計算と直接原価計算の営業利益の差は、期末在高に含まれる固定加工費(固定製造原価)が売上原価に含まれることが原因であるといえます。
固定費調整
このような差異が発生してしまうため、直接原価計算による損益計算書を作成した場合、一般的な全部原価計算の数字に合わせなければならない作業があります。
これを固定費調整といいます。固定費調整は以下の式によって行います。
全部原価計算の営業利益:直接原価計算の営業利益+期末製品(仕掛品)に含まれる固定製造原価-期首製品(仕掛品)に含まれる固定製造原価
例題の直接原価計算による損益計算書(前期)を修正したものが以下のとおりとなります。
3月は卒業式ラッシュなのと、この時期2月の試験で閲覧者が少ないため、3月16日までお休みします。