税効果会計というととても難しく聞こえますが、3つ覚えればいいだけです。
その1つが貸倒引当金の繰入限度額です。
1級の範囲になりますが、1度貸倒引当金のおさらいをします。
貸倒引当金を設定する金銭債権
貸倒引当金:売掛金や貸付金などの金銭債権が貸し倒れたときのために備える引当金
この金銭債権については3つの種類があります。
①破産更生債権等
すでに経営破綻が確定している取引先に対する金銭債権で、破産手続きに入っているものです。
この場合、担保や保証による回収見込額を減らして、その残額について貸倒引当金を計上します(財務内容評価法)。
経営破綻の状況にはまだ達していないけれども、経営状態が悪化している取引に対する金銭債権です。
この場合、①と同じ方法で貸倒引当金を設定するか、割引現在価値を使ったキャッシュフロー見積法で設定します。
③一般債権
一般債権は、貸し倒れになる可能性が低いので、その債権を一括して、または同種類の業種などの債権ごとに貸倒実績率を掛けて貸倒引当金を算定します。
以上のように貸倒引当金の対象となる金銭債権には3つの種類があります。そのため、会計法上と税務上での貸倒引当金の設定方法には異なる部分が多いのです。
貸倒引当金繰入の損金不算入
例)貸倒引当金500円を繰り入れたが、そのうち100円については損金として認められなかった。なお、法人税等の実効税率は40%とする。
(当期の収益を1,000円、当期の費用は貸倒引当金500円のみと仮定して説明します。)
この例をもとにして説明をします。まず、税法上無視して何もなかった状態の損益計算書が以下の通りとなります(イラストと報告式)。
そして、税法上の指示に従ったものが次の通りとなります。費用(貸倒引当金)が400円しか認められなかったため、当期純利益が増えます。その結果、納める税金も増えることとなってしまいました。
でも、すべてを税法上に合わせては、会計法が無視される形になり、とても不満が残ります。できれば税金関係の部分だけわかるようにして、他は指図を受けたくはないのです。
では、どうすれば平和的に解決することができるかというと…
ここで、法人税等調整額という勘定科目が登場します。損金として認められなかった貸倒引当金100円×40%=40円を以下のように表示することで納める法人税等は240円に、そして当期純利益も300円のままとすることができるのです。
税効果会計としての仕訳
では、この表現を仕訳ではどうするのかが次の段階です。
まず、はじめに税効果会計関係なく貸倒引当金を計上した決算整理仕訳はこうなります。
そして、前回のフレーズを思い出してください。
「損金算入が認められなかった」=前の仕訳の費用を減額でした。
そして減らすべきターゲットは損益計算書に関係する貸倒引当金繰入の方です。貸倒引当金自体は貸借対照表の科目ですから、こちらを変えてしまうと大混乱になってしまいます。
貸倒引当金はそもそも売掛金などの金銭債権を評価する勘定科目です。1,000円売掛金があったとして500円の貸倒引当金があれば、その売掛金の価値は差し引き500円ということになります。このように売掛金の価値を左右する科目ですから容易に変えることなどできません。
とはいっても直接減らしてしまうと損益計算書の数字が変わるので、先ほどのでたらめなものが作成されてしまいます。税金関係だけ調整したいのですから、先ほど登場した法人税等調整額を使います。
まず、費用に関しての税金部分を減らしたいのですから、今回貸倒引当金として認められなかった100円に対して法人税等の計算をします。
調整すべき法人税等:100円×40%=40円
貸倒引当金繰入は借方にありましたから、法人税等調整額は貸方に40円を記入します。
(???)40/(法人税等調整額)40
あとは、相手科目です。法人税等調整額の相手科目は繰延税金資産(資産)または繰延税金負債(負債)を使います。
資産のホームポジションは借方、負債のホームポジションは貸方です。今回空いているのは借方ですから繰延税金資産で処理します。
ところで、税効果会計を適用できるのは一時差異のときですから、繰延税金資産として多く支払った税金は、その事象が解消すれば戻ってきます。
一時的に40円を国に貸してあげてるものと考えれば、貸付金や売掛金と同じグループの資産となる訳です。
解消時の処理
貸倒引当金の繰入限度額が解消されるときは、貸倒引当金を取り崩した場合です。そして、決算整理仕訳で行うことから決算時に処理します。
取り崩す原因は、貸し倒れが実際発生した時や新たに貸倒引当金を設定し直す時です。
例)貸倒引当金600円を設定したが、そのうち120円については損金算入が認められなかった。なお、前期に売掛金が貸し倒れ、貸倒引当金を全額取り崩している。
(先ほどと連続した取引とします。)
まずは、売掛金が貸し倒れたため、前回の逆仕訳をします。
リセットしましたので、今回の仕訳を計算して税効果会計を行います。
調整すべき法人税額:120円×40%=48円
そして、今回は差し引きして仕訳を行っても大丈夫なパターンですから、実際には2つにしないで1つにまとめた以下の仕訳となります。
どちらの方法も正解ですが、解答欄が1行の場合は相殺したもので処理しましょう。