ポリテク火星出張所!

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連結会計その3~開始仕訳~

予備知識が終わったところで、いよいよ本題に入ります。ここは日本商工会議所のサンプル問題を例題として解説します。開始仕訳⇒連結修正仕訳⇒連結精算書と続きます。

なお、例題はそのテーマごとに表示していきます。全体を見たい方は、日本商工会議所のサンプル問題として掲載されていますので、そちらをご覧ください。

連結決算書を作成するために、他の会社をグループ会社として取り込んだ時点から前年度までの純資産等の流れを一つの仕訳としたものを開始仕訳といいます。いわば、下準備となるものです。

例題 以下の資料から、連結第2年度(×1年4月1日から×2年3月31日)の連結精算表を作成しなさい。

【資料】

1.P社は、×0年3月31日にS社の発行済株式総数(6,000株)の60%を300,000千円で取得して支配を獲得し、それ以降S社を連結子会社として連結財務諸表を作成している。のれんは、支配獲得時の翌年度から10年間にわたり定額法により償却を行っている。

2.×0年3月31日(支配獲得時)におけるS社の純資産項目は、資本金300,000千円、資本剰余金80,000千円、および利益剰余金20,000千円であった。

3.連結第1年度(×0年4月1日から×1年3月31日)においては、S社は、当期純利益80,000千円を計上した。配当は行っていない。

ー以下省略ー

支配獲得時の処理

合併の場合、合併される側の会社は消滅するので資産と負債を引き継ぎ、純資産項目は無視して処理をしました。

連結の場合、連結子会社は存続します。よって、最終的には資産と負債項目は本支店会計のように合算することとなります。純資産項目については、のれんを計算するために必要なデータとなります。

したがって問題文には、連結子会社(S社)の支配獲得時の純資産項目が表示(【資料】2.)されています。

開始仕訳には、以下の工程があります。

①投資と資本の相殺

②のれんの償却

③子会社の当期純損益の振り替え

④子会社の配当金の修正(問題文によってはない場合がある)

 

 連結親会社(P社)の支配獲得時の仕訳

S社株式を300,000千円で取得(購入)しています。相手勘定は便宜上「現金預金」とします。

【P社の仕訳】

(S社株式)300,000/(現金預金)300,000

これを貸借対照表で表示すると以下のようになります。

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連結子会社貸借対照表の状態について

次はS社の貸借対照表を見てみましょう。注目すべきは純資産の株式の持分比率です。【資料】2.の純資産を合計すると400,000千円となります。そのうち60%をP社が取得ました。残り40%はP社とは関係ない株主の集まり(非支配株主)の持分となります。

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①投資と資本の相殺

ここからが開始仕訳の第1歩となります。P社とS社は連結上は1つの会社でなければならないので、連結したときに同じものは意味がないので消してしまうという作業を行います。

今回P社は、S社の純資産60%分をS社株式として取得したのですから、これらは同じものとなります。

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連結財務諸表では、純資産は親会社であるP社のものしか表示しません。主役はあくまで親会社なのです。おそらく、タイトルもP社(グループ)連結貸借対照表とかP社ホールディングス連結貸借対照表などで表示されます。

まずは、S社の純資産部分は必要ないので、すべて借方に記入して消去します。

(資本金)300,000/

(資本剰余金)80,000/

(利益剰余金)20,000/

次に、P社のS社株式(資産)を貸方に記入します。

(資本金)300,000/(S社株式)300,000

(資本剰余金)80,000/

(利益剰余金)20,000/

そして、のれん(資産)を計算します。まず、S社の純資産合計は400,000千円です。このうちの60%である240,000千円がP社の持分です。これを300,000千円で取得したのですから、その差額60,000千円がのれん(資産)となります。

最後に非支配株主の持分40%分160,000千円を非支配株主持分(純資産)とすれば完成となります。

【投資と資本の相殺仕訳】(×0年3月31日:連結第0年度)

(資本金)300,000/(S社株式)300,000

(資本剰余金)80,000/(非支配株主持分)160,000

(利益剰余金)20,000/

(のれん)60,000/

その他の連結修正仕訳の処理

②のれんの償却

のれん60,000千円について、翌年から10年間にわたり定額法で償却を行います。

償却額:60,000千円÷10年=6,000千円

【のれん償却の仕訳】

(のれん償却)6,000/(のれん)6,000

としたいところですが、ここで注目の事実があります。問題文には現在の決算期はいつでしょうか?連結第2年度(×2年3月31日)となっています。つまり、連結第1年度(×1年3月31日)の決算は終了しています。

過去の決算の集約はすべて利益剰余金(純資産)(繰越利益剰余金は利益剰余金として表示)で行われています。そのため過去の収益や利益が発生したら貸方で増加させ、逆に費用や損失が発生したら借方で減少させます。

このルールは、開始仕訳が完成するまで続きますから覚えておきましょう。

のれん償却(資産)という勘定科目名が使用できるのは、今回でいうと連結第2年度分に対する償却分だけとなります。よって、以下の仕訳が正しい仕訳となります。

【正しいのれん償却の仕訳】(×1年3月31日:連結第1年度)

(利益剰余金)6,000/(のれん)6,000

③子会社の当期純損益の振り替え

【資料】3.によりS社の連結第1年度の当期純利益80,000千円を親会社と非支配株主へ振り分けます。アップストリームのところでお話しした例をここでもう一度使います。P社と非株くんはS社の共同経営者ですから、利益が生じた場合持分比率により振り分ける必要があります。

P社の分け前:80,000千円×60%=48,000千円

非株くんの分け前:80,000千円×40%=32,000千円

まずは、S社の当期純利益を借方に記入します。×1年度(過去)の当期純利益ですから、勘定科目は利益剰余金(純資産)となります。

(利益剰余金)80,000/

続いて、貸方にそれぞれの分け前を記入します。P社の分け前は利益剰余金(純資産)、非株くんの分け前は非支配株主持分(純資産)です。

(利益剰余金)80,000/(利益剰余金)48,000

          /(非支配株主持分)32,000

P社(貸方)もS社(借方)も同じ利益剰余金の項目が出てきます。この仕訳は非株くんの分け前を利益剰余金から差し引く仕訳だけでOKです。

簿記の原則では相殺禁止というものがありますが、この一連の仕訳は開始仕訳という正式な仕訳を行うための準備作業となりますから、例外として相殺してもよいということになります。

【子会社の当期純利益の振り替え】(×1年3月31日:連結第1年度)

(利益剰余金)32,000/(非支配株主持分)32,000

④子会社の配当金の振り替え

今回、連結第1年度における配当は行われていないので、仕訳はありません。もし、合った場合は、子会社の当期純利益の振り替えと同じように非支配株主の配当分を非支配株主持分へ振り替える作業をしましょう。

【子会社の配当金の振り替え】

(利益剰余金)×××/(非支配株主持分)×××

開始仕訳の処理

④はなかったので、これから①から③までの仕訳をすべてくっつけて開始仕訳を作成します。

【①から③までをそのままくっつけた仕訳】

(資本金)300,000/(S社株式)300,000

(資本剰余金)80,000/(非支配株主持分)160,000

(利益剰余金)20,000/

(のれん)60,000/

(利益剰余金)6,000/(のれん)6,000

(利益剰余金)32,000/(非支配株主持分)32,000

同じ科目を相殺してきれいにしたものが次のものとなります。

【①から③を整えた仕訳】

(資本金)300,000/(S社株式)300,000

(資本剰余金)80,000/(非支配株主持分)192,000

(利益剰余金)58,000/

(のれん)54,000/

そして、開始仕訳では純資産項目の語尾に「当期首残高」をくっつければ完成となります。当年度(第2年度)の同じ科目と区別するためです。

【開始仕訳】

(資本金当期首残高)300,000/(S社株式)300,000

(資本剰余金当期首残高)80,000/(非支配株主持分当期首残高)192,000

(利益剰余金当期首残高)58,000/

(のれん)54,000/

最後に注意点ですが、大抵のテキストの例題には第2年度と連続した会計年度になっています。ところが最近では、第1年度からいきなり第4年度に飛んでしまう出題傾向になります。そのため、今まで習っていないものが突然出題されたため、そのときの合格率はとても低い結果になってしまいました。

今ではその対策もされていることと思いますが、そんな問題が出題されたら過去の記事を参考に解いてみてください。

 

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