ポリテク火星出張所!

商業高校あがりの行政書士が日商簿記をはじめとして資格支援のためにブログを書いています。

連結会計その4~当年度の連結修正仕訳~

前回の続きです。本来は開始仕訳が完成したら、すぐに解答用紙に記入するようお話ししています。しかし、次回の連結精算表の作成がまるでクロスワードパズルのような記入の仕方になるので、そのときに一気に解説していきます。

今回も例題の関係する部分のみ掲載させていただいております。

例題 以下の資料から、連結第2年度(×1年4月1日から×2年3月31日)の連結精算表を作成しなさい。

【資料】

1.~3.前回のテーマのため省略

4.連結第2年度(×1年4月1日から×2年3月31日)において、S社は、当期純利益180,000千円を計上し、50,000千円の配当を行った。

5.連結第2年度末より、P社はS社に対して商品を販売しており、その売上高は660,000千円である。

6.連結第2年度末において、P社の売掛金残高のうち100,000千円がS社に対するものである。

7.連結第2年度末において、S社が保有する商品のうち、P社が仕入れた金額は40,000千円である。P社がS社に対して販売する商品の売上総利益率は、25%であった。

のれんの償却

資料や問題文には直接「のれんの償却」の指示は載っていませんが、忘れずに当年度分をします。当年度分ですから通常通りの仕訳で処理します。

【連結修正仕訳】

償却額:60,000千円÷10年=6,000千円

(のれん償却)6,000/(のれん)6,000

開始仕訳の時の利益剰余金(純資産)をのれん償却(費用)に変えるだけです

 子会社の当期純損益の振り替え

【資料】4.の前半部分です。考え方は開始仕訳の時と同じで、当期純利益の非支配株主持分の分け前を振り分ける作業です。

非支配株主持分の振替分:180,000千円×40%=72,000千円

前回に沿った形での仕訳は以下のとおりです。

【前年度に沿った仕訳】

(利益剰余金)72,000/(非支配株主持分)72,000

当年度でいうと、この利益剰余金にあたる勘定科目は、「非支配株主に帰属する当期純利益」というものを使います。そのままの意味なのでとても長いです。説明するときも言いにくいので「非帰」と略していました。

【連結修正仕訳④-1】

(非支配株主に帰属する当期純利益)72,000/(非支配株主持分当期変動高)72,000

なお、開始仕訳のときには、純資産項目に「○○当期首残高」と表示しましたが、その連結修正仕訳では、「○○当期変動額」と表示します。

次回、解答用紙をアップしますが、「非支配株主持分」と「非支配株主持分当期変動高」の欄が別々に存在するため、区別して記入することとしています。

子会社の配当金の振り替え

前年度にはなかったので、ここで配当金の説明をいたします。

S社で発生した配当金をP社が株主の権利として受け取っています。連結会計では、P社とS社は一つの企業として財務諸表を作成します。そのため、内輪での利益のやりとりは無くしていきます。

ここで誤解のないように話しますが、S社の株主としてP社が配当金を受け取ることは正当な権利です。なので、「金銭そのものを返還せよ」と言っている訳ではないということを理解してください。あくまで連結精算書を作成するために、この手続き(仕訳)が必要ということです。

ということで話を戻します。まず、配当金を無かったことにするために、そのときの仕訳を再現します。

【P社の仕訳】

P社の配当金(持分比率による):50,000千円×60%=30,000千円

(現金預金)30,000/(受取配当金)30,000

残り20,000円は、他の株主への配当となります。

【S社の仕訳】

(未払配当金)50,000/(現金預金)50,000

なお、まだ解答用紙を示していませんが、「受取配当金」は「営業外収益」、「未払配当金」は「配当金」の勘定科目を使用していますので、それに合わせて仕訳をします。

【P社の仕訳(改)】

(現金預金)30,000/(営業外収益)30,000

【S社の仕訳(改)】

(配当金)50,000/(現金預金)50,000

まず、S社が支払った配当金を戻してもらいましょう。ちなみに現金預金を返す必要がないので、単純に逆仕訳にはなりません。

         /(配当金)50,000

次にP社が受け取った配当金(営業外収益)を戻します。

営業外収益)30,000/(配当金)50,000

これでは貸借が合わないので、他の株主への配当金は連結精算書にだけ出現する非支配株主持分当期変動高で処理します。

【連結修正仕訳④-2】

営業外収益)30,000/(配当金)50,000

(非支配株主持分当期変動高)20,000/

 

内部取引高と債権債務の相殺取引

考え方は配当金と同じで、P社とS社との内部取引があれば、その取引金額を相殺控除します。

たとえば、銀行が「あなたの家の財産状況すべてをお知らせください。」と依頼があったときに、親子での金銭のやり取りは必要ありませんと言っていることと同じです。「家のすべての財産」と言っているわけですから、親の財産も子の財産も合わせて教える必要があります。内訳は必要ないのです。

今回の【資料】でいうと、5.商品と6.売掛金が該当になりますので、順に説明していきます。

内部取引高の相殺控除

P社からS社への商品の移動が660,000千円あります。これも元の仕訳を考えると以下のとおりとなります。

【P社の仕訳】

(???)660,000/(売上高)660,000

【S社の仕訳】

(売上原価)660,000/(???)660,000

これも解答用紙から勘定科目を記入します。「売上」は「売上高」、「仕入」は「売上原価」となっています。

なお、P社とS社間の取引ですから、掛け取引が予想されますが、この次にすぐ説明します。今回は、売上高と売上原価に焦点を当てたいので、(???)で表記しています。

この取引を無かったことにしますので、以下の仕訳となります。

【連結修正仕訳⑤】

(売上高)660,000/(売上原価)660,000

内部取引高の相殺控除について、その他以下のものがあります。

(受取利息)と(支払利息)

(受取配当金)と(配当金)

債権債務の相殺控除

P社の売掛金のうち、100,000千円がS社に対するものです。S社にとっては買掛金となります。

【P社の仕訳】

売掛金)100,000/(???)100,000

【S社の仕訳】

(???)100,000/(買掛金)100,000

親子間の貸し借りは外部には必要ないので、この取引を相殺控除します。

【連結修正仕訳⑥】

(買掛金)100,000/(売掛金)100,000

債権債務の相殺控除については、その他以下のものがあります。

受取手形)と(支払手形)

(貸付金)と(借入金)

(未収収益)と(未払費用)

(前受収益)と(前払費用)

未実現利益の消去

【資料】7.ではP社からS社へ販売した商品のうち40,000千円に対して、(売上総利益率)25%の利益が含んでいます。親子間で付けた利益も必要ないので、その利益を消去します。なお、すでに販売済みのものについては、売上高に加算されていますので、先ほどの処理で終わっています。

ここで処理が必要なのは在庫に残っている商品(今回はS社)に付加されている利益を消去する作業です。

まず、この部分で注意すべきは利益分の計算です。

今回は、売上総利益ということですから、売価に対する利益が25%含んでいることになります。

商品に含まれる利益:40,000千円×25%=10,000千円

もう一つ、注意しなければならないのは、今回の取引についてアップストリームなのか、ダウンストリームなのかを判断することです。

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今回はダウンストリーム(P社からS社への移動)ですから、非支配株主持分の出番はありません。通常通りに仕訳をすることになります。

すでに各会社で行われている個別財務諸表には、例の仕・繰・繰・仕が行われています。そして、決算書には「仕入」は「売上原価」、「繰越商品」は「商品」と名を変えています。

それを踏まえて説明しますと、期末商品の計上は「商・売」(繰・仕)です。

【S社で行われた決算整理仕訳】

(繰越商品)40,000/(仕入)40,000

⇒(商品)40,000/(売上原価)40,000

このうち、利益分10,000千円について、逆仕訳をします。

【連結修正仕訳⑦】

(売上原価)10,000/(商品)10,000

**売上総利益率と付加率**

売上総利益率のほかに「原価に25%の利益を付加して販売している。」と出題される場合があります。こちらは、原価に対する利益となっていますから、計算方法が全然異なります。

原価X千円×125%=売価40,000千円

原価X:40,000千円÷125%=32,000千円

利益:40,000千円-32,000千円=8,000千円

実際には以下の計算式を用います。

利益=売価×25%/125%

この場合は以下の仕訳となります。

(売上原価)8,000/(商品)8,000

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ちなみに、利益率付加率のほかに原価率というものがあります。原価率売価-利益率で求めることができますが、詳しくは1級の範囲となります。

**アップストリームの場合**

この問題がS社からP社への商品の移動だった場合には、アップストリームの論点となります。アップストリームでは、非支配株主持分が関係してきます。

今回の仕訳により費用(売上原価)が10,000千円増えました。その分を非支配株主持分にも負担してもらうことになります。

非支配株主持分の負担分:10,000千円×40%=4,000千円

非支配株主持分が得した場合は、

(非支配株主持分当期変動高)/(非支配株主に帰属する当期純利益

非支配株主持分が損をした場合はその逆ですから、今回の仕訳がアップストリームだった場合は、以下のとおりとなります。

(売上原価)10,000/(商品)10,000

(非支配株主持分当期変動高)4,000/(非支配株主に帰属する当期純利益)4,000

 

 

以上のように「未実現利益の消去」には分岐点がありますので、よく読んで解くようにしましょう。