おまけ第2回は、製造業の財務諸表です。今までの総復習ということで、工業簿記の知識も問われます。また、貸借対照表メインですが、20点満点を取るには、自分で簡単な損益計算書を作成しなければならないということになります。
これもサービス業のときと同じように基本通りの説明を行ってから、実際の解き方をやっていきます。決算整理事項については、工業簿記の部分を先に、商業簿記の部分を後にして解いていきます。
この問題の特徴は残高試算表が2月までのものだということです。したがって、3月中の取引が資料2の1で示されています。資料2の2からが決算整理事項となります。
また、損益計算書の解答をするにあたって、製造原価項目、販売費及び一般管理費、営業外損益、特別損益の分類が正確に理解できていないと、自作の損益計算書を作成できないため、非常に難しい問題となっています。
それでは、いつものように問題からです。決算整理事項等は今回工業簿記分野に関するものだけをピックアップします。
問 受注生産・販売を行っているS製作所の[資料1]と[資料2]にもとづいて、答案用紙の貸借対照表を完成させるとともに、区分式損益計算書に表示される、指定された種類の利益の金額を答えなさい。なお、会計期間は×7年4月1日から×8年3月31日までの1年間とする。
[資料1]×8年2月末現在の残高試算表
[資料2]3月の取引・決算整理等に関する事項
1.3月について、材料仕入高(すべて掛買い)¥90,000、直接材料費¥70,000、直接工直接作業賃金支払高(現金扱い、月初・月末未払なし)¥80,000、製造間接費予定配賦額¥90,000、間接材料費実際発生額¥20,000、間接材料費と以下の事項以外の製造間接費実際発生額(すべて現金支出を伴うものであった)¥32,500、当月完成品総合原価¥230,000、当月売上原価¥220,000、当月売上高(すべて掛売り)¥320,000であった。年度末に生じた原価差異は、以下に示されている事項のみである。なお、原価差異は、いずれも比較的少額であり正常な原因によるものであった。また、×7年4月から×8年2月までの各月の月次決算で生じた原価差異はそれぞれの月で売上原価に付加されているものとする。
2.決算にあたり実地棚卸を行ったところ、材料実際有高は¥48,000、製品実際有高は¥33,000であった。減耗は、材料・製品とも正常な理由による生じたものであり、製品の棚卸減耗については売上原価に賦課する。
3.固定資産の減価償却費については、期首に年間発生額を見積もり、以下の月割額を毎月計上し、決算月も同様の処理を行った。
建物¥4,000(製造活動用¥2,600、販売・一般管理活動用¥1,400)
機械装置(すべて製造用)¥11,200
5.退職給付引当金については、年度見積額の12分の1を毎月計上しており、決算月も同様の処理を行った。製造活動に携わる従業員に関わるものは、月¥24,000、それ以外の従業員に関わるものは月¥16,000である。年度末に繰入額を確定したところ、年度見積額に比べ、製造活動に携わる従業員に関わるものは¥1,500多かった。それ以外の従業員に関わるものは年度初めの見積もりどおりであった。
相当ボリュームがあるので、この問題が真正面で出題されたときには、全てを解くために慣れが必要となります。ちょっと厳しいと思う方は、区分式損益計算書に表示される利益を捨て問にしても構いません。この損益計算書部分の予想配点は各1点計4点です。売上総利益を2点にして、未払法人税等あたりを1点にしている他社の問題集もありました。
実際どこまで解答を進めて行くかで解き方が変わってくる場合があります。そのため、製造業に関する部分については、ひとまずボックスの説明に留めておくこととします。
3月の取引内容について
実際には仕訳ではなくボックスで解くことになりますが、この1.の中には材料・賃金(労務費)・製造間接費・仕掛品・製品・売上原価のボックスの内容が詰まっています。
①材料費及び労務費の計算(材料・賃金ボックスの作成)
材料費について抜き出すと以下のようになります。
2月末T/B 材料¥48,100
(1.から)材料仕入¥90,000、直接材料費¥70,000、間接材料費¥20,000
(2.から)材料実際在高¥48,000
材料費については、貸借が合わない分を原価差異(棚卸減耗費)とします。
原価差異:(¥48,100+¥90,000)-(¥70,000+¥20,000+¥48,000)=¥100
労務費(賃金)については、直接労務費¥80,000円のみです。月初・月末未払いもなく、そのまま仕掛品に流れます。
ボックスにまとめたものが以下のとおりとなります。
②製造間接費の計算(製造間接費ボックスの作成)
工業簿記においては、減価償却費などの費用も製造に直接関するものは製造間接費に入ってきます。
1.の製造間接費項目はもちろんのこと、3.の減価償却費の製造活動用、5.の退職給付費用の製造活動に携わる従業員に関わるものは、すべて製造間接費ボックスに入ります。
製造間接費に関するものを抜き出すと、以下のとおりとなります。
(1.から)製造間接費予定配賦額¥90,000、製造間接費実際発生額¥32,500
(①材料ボックスから)間接材料費¥20,000
(3.から)建物減価償却費¥2,600、機械装置減価償却費¥11,200
(5.から)製造活動に携わる従業員に関する退職給付費用¥24,000
退職給付費用については、見積りよりも¥1,500多かったと記載されていますので、実際には、この分も含めた¥25,200になります。
こちらも貸借が合わない分を原価差異(製造間接費配賦差異)とします。
原価差異:(¥32,500+¥20,000+¥2,600+¥11,200+¥25,200)-¥90,000=¥1,800
ボックスにまとめると以下のとおりとなります。
③仕掛品及び製品の計算(仕掛品・製品ボックスの作成)
材料費・労務費・製造間接費の仕掛品への配賦額が確定しましたので、それに基づいて仕掛品ボックスを作成します。
(前T/Bから)月初在高¥50,000
(①材料ボックスから)直接材料費¥70,000
(①賃金ボックスから)直接労務費¥80,000
(②製造間接費ボックスから)製造間接費¥90,000
(1.から)完成品総合原価¥230,000
貸借差額が月末在高¥60,000となります。
続いて製品ボックスも作成します。
(前T/Bから)¥25,000
(1.から)完成品総合原価¥230,000、当月売上原価¥220,000
(2.から)製品実際在高¥33,000
貸借差額は、原価差異(棚卸減耗費)となります。
原価差異:(25,000+230,000)-(220,000+33,000)=¥2,000
④売上原価の計算(売上原価ボックスの作成)
最後は、売上総利益を計算するのに欠かせない売上原価を計算します。
(前T/Bから)2月までの売上原価残高¥2,265,000
(①材料ボックスから)原価差異¥100
(②製造間接費ボックスから)原価差異¥1,800
(③製品ボックスから)売上原価¥220,000、原価差異¥2,000
このすべてを足した金額¥2,488,900が売上原価の総額となります。
ひと通り見ていただくとわかりますが、原価差異だけ赤字で表示しました。その理由については、実際の解き方編で説明いたします。